甲子園で勝つこととフェアプレーはイコールではない

2013年8月23日

今年の高校野球甲子園大会は前橋育英の優勝で幕を閉じた。母校が甲子園に出るわけでもなく(地区予選一回戦敗退(泣))、東北地区でさえ私立校の出場が多すぎて最近はあまり観ることもなくなったが、今回はヒーローとは別の意味で興味深い選手が現れた。準決勝まで勝ち進んだ、花巻東高校の千葉翔太外野手である。

千葉選手の2つの野球行為が、スポーツ紙やネット上で話題になっている。「サイン盗み」と「カット打法」という、どちらも疑いではあるが審判に注意を受けた行為のことだ。

「サイン盗みの疑い」は8月19日におこなわれた花巻東対鳴門戦でのこと。花巻東の二塁走者であった千葉選手が、バッターに対してキャッチャーの構える位置をジェスチャーで教えたとして球審が注意をした。この行為は「高校野球・周知徹底事項の2.マナーについて」で禁止されている。プロ野球規則ではルール化されていないということだが、一種の紳士協定に基づき「やってはいけない」行為として認識されているらしい。

「カット打法の疑い」については、同じく対鳴門戦で意識的にファウルを打って相手投手に計41球を投げさせたことが、高校野球特別規則「17.バントの定義」に抵触するかもしれないとして、試合後に大会本部から確認を受けたことだ。ちなみに、プロ野球にはこのような規則がない。そのためか次の準決勝の対延岡学園戦で、千葉選手はいつもの打法を封印し4打席凡退に終わり、チームも敗退した。

高校野球特別規則 17.バントの定義
バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある。

この2つの行為に対して、ネットメディア上では

【サイン盗み】

ハフィントンポストの記事とそれについての様々なコメントがおもしろい
花巻東の「サイン盗み」は常套手段?それともルール違反? 【高校野球】

高校野球とフェアプレー

勝つためには手段を選ばない。個々の選手がつい出来心でやってしまうこともあるが、チームぐるみでやるのは問題だろう。開会式で「正々堂々戦うことを誓います」と宣誓するのだからフェアプレーの精神を忘れてはいけない。

対戦校も覚悟はしていたようだ。
延岡学園 サイン対策は万全

「サインの種類を変えたり、増やしたりする。監督にも以前からこういうケースの時には準備しとけ、と言われてますから。二塁走者がおかしな動きをしていたらすぐに審判に言います」と対策を練る。

「疑い」というよりは完全にやってますよね、これ。まあ、ルールがあるのだからこれに違反していることは間違いない。ハフィントンポストのコメントにもあったが、これを選手個人の考えてやっているというのは無理があるので、監督やベンチスタッフの指示が当然あるのだろう。

また、これが当たり前になったら、見るほうにとってはとてもつまらない、野球とは別のスポーツになってしまう。野球が好きであればあるほど、この行為には拒否反応が強いはずだ。プロで「紳士協定」としているのは、それがよくわかっているからではないか。わざわざルールとして明文化することではない、大人だったらそれぐらいわかるだろ、みたいなことだろう。

 

【カット打法】

一方、この行為には同情というか見方が異なる意見が多かった。

花巻東・千葉のプレースタイル 審判部の注意に批判の声も

「甲子園への遺言」など野球に関する著作が多いノンフィクション作家、門田隆将さんは「千葉選手の活躍は全国の体の小さな選手に勇気とやる気を与えたはずだ。自分の創意と工夫でレギュラーを勝ち取り、甲子園の土を踏んだ希望の星」と活躍を称賛。その一方で、大会審判部の対応について「そのプレースタイルは、誰もができるものではなく、一生懸命努力して会得したもの。高野連はその努力が分からないのか。希望の芽を摘もうとしている」と批判した。

巨人・川相ヘッド、156センチの花巻東・千葉外野手を絶賛 一方で激辛評価も

「プロにああいうのがいてもいい。欲しいよ」と最大級の賛辞を口にするのは巨人・川相昌弘ヘッドコーチ(48)。
「相手から見たら嫌らしい打者だよ。それに、ファウルを何本でも打ち続けられるということは、甘い球さえくればヒットにできる技術もあるということ。ボールをぎりぎりまで引きつけ、投球を長く見ているから、バットに当てる確率が高い」と説明する。

元高校球児のコメントもあった。

カット打法“禁止” きっかけは巨人・阿部の父「バントだ」

▼阿部東司さん(58) あの時はバッターがグリップを握った時、右手と左手が離れていてバントのように打ったから審判に言った。今回の千葉君は両手を離して構えていたけど、振る時には両手がしっかりくっついて打っていた。だから、この子はあの時と似てるけど、ちょっと違う。問題ないと思って見ていた。
▼前原正弘さん(59) 彼の悔しさはよく分かる。あの打法は選球眼やバットコントロールが大事で誰もができるものではない。私と同様、小さい体で何ができるか努力してレギュラーになった。高野連にはもう少し大きな目で見てほしかったし、準決勝の前に警告するのもどうか。私が郷司さんに注意されたのは甲子園初打席ですから。

こんな見方も。
花巻東の千葉くんは洗脳されていると思う

つまり、「監督=悪」論ですね。
このトラバにもあるが、最後の一行はぼくも笑ってしまったのでウケ狙いで書かれてるのかもしれない。

「監督が悪い」という意見は、「サイン盗み」について多くあった。しかし、この「カット打法」については、その目的は監督もわかってはいるが、千葉選手本人がレギュラーを確保するためにどうすればよいか(どうすれば9人の中で役割を果たせるか)を考えて、技術を磨き選んだ方法なのではないか。なんといっても156センチの上背しかないのだから、普通の高校球児と同じことをやっていてレギュラーを取れる確率は非常に少ないのである。手段を選ばないといったら言い過ぎかもしれないが、彼ならではの野球だったのではないか。ある意味、ドカベンの殿馬のような個性だ。

先にあげた高校野球特別規則では「いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある。」となっている。これは審判の裁量に委ねるということだ。素人目にはものすごくあやふやな規則に映る。そして、その注意確認のタイミングが準決勝の前というのがひっかかる。同じ試合で犯した「サイン盗み」が影響したことは明らかだろう。

ぼくはこの打法が本当にルール違反に相当するのかどうかはわからない。しかし、阿部東司さん(巨人・阿部選手の父)がおっしゃるように「問題ない」のだとすれば、このような個性を潰すようなことはとても残念なことだったと思うのだ。彼が今後これを糧にしつつ、さらに個性的な選手として活躍することを祈るものである。

 

今年の甲子園出場校の内訳は、公立14校と私立35校と私立が圧倒的に多い。東日本に限ってみると、公立は秋田商と日川の2校しかない。ご存知のように、伝統校ではない私立高は、入学希望者を増やすためにスポーツで名を馳せて、その存在をPRするブランド戦略をとるところが多い。

甲子園の出場は、露出度が高いために最短で目的を果たすことができるので、野球部に予算を重点的に入れて全国各地から実力のある有望な選手をスカウトしている。都道府県代表の高校といっても、選手の出身地は全国各地に散らばっている。そんな状況が昨今の甲子園だ。代表校を郷土の人が心から応援できないことが多いと聞くのもうなづける。

高校野球に「正々堂々」や「フェアプレー」を求めるのはかまわない。監督=悪を否定するものでもない。だが、地方レベルならまだしも、甲子園に出る、ましてや上位を争い最終的には有名校になる、プロへ行く、というようなレベルを目指す高校同士の戦いにとっては、そのような青臭いことはまったく幻想に過ぎない時代になってしまったのだ。

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