Appleが変えた仕事、30年前と今

2014年1月27日

パソコンによって印刷物を作れるということくらいは、今や多くの人が知っている。名刺を自分でプリントしている人もいるだろう。Wordのような安価なソフトでも、簡単なパンフレット程度なら作ることができる。そういう工程を表す「DTP」という言葉は本来専門用語であるが、ゴロがいいこともあってかあまりそういう雰囲気はない。「DTP」以前は「活版」とか「写植」とか…、なんだかよくわからない専門的な業種の人たちが関わっている用語の印象があった。

 

世界中の印刷システムをDTPへと、つまりアナログからデジタルへと導いたのはAppleである。もっと率直にいえば、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズが、「Macintosh」というパソコンとOSをこの世に出したからだ。もちろん、彼一人がすべてを発明し作ったわけではなく、他の企業(例えばAdobeやXEROX)の力も無視はできないのだが、大きな括りでいえば、これが端緒であり原動力になったことだけは間違いない。

そのAppleが1984年1月24日に最初の「Macintosh」を発表してから、今年で30周年ということだ。この年にジョブズがこの世にいないということになんともいえない寂しさがあるが、スペシャルサイトが公開されている。あっ、そうだ。MacはDTPのみならず、音楽や映像の分野でもデジタルフロンティアだったことを付け加えておかなければならない。そして、それらは今でも続いている。真鍋大度氏、Appleによって重大な影響を与えたクリエイターの1人に選ばれる

このサイトに「Your first Mac」というコンテンツがある。「あなたの最初のMacを教えて!」という部分で自分が一番最初に使ったMacを選ぶことで、過去から現在に到るまでの年代別の機種比率データに協力できるようになっている。こんな風にだ。

first-mac

機種を選ぶのみならず、どんな用途に使ったのかも聞かれるので、ぼくの場合は「Graphic Design」と答えた。本来なら「Desktop Publishing」(DTPはこれの略称)と答えたいところだが、ぼくが使い始めた頃は、まだ日本のDTP環境が仕事として使えるレベルに満たなかったのだ。だから、主な用途はロゴやイラストを作成して紙で出すみたいなことだったと思う。

本国サイトなので圧倒的に英語圏のユーザのデータが中心になっていると思うが、これを眺めていておもしろいのは、「時代はまったく変わってしまった」ということである。

 

mac-1984

1984年。最初のMacintoshが発売された年。その頃インターネット環境は、まだまだ一般人の物ではなかった。日本とは事情が異なると思うが、すでにDTP用途として購入していた人が圧倒的に多いのがわかる。当時のMacはめちゃくちゃ高価なもの(高級車一台が買えた)で、仕事以外で使うなどという代物ではなかった。

 

mac-1995

1995年。この年、鳴り物入りでWindows95が発売。インターネット環境が整い始め、一般の人たちもホームページ(まだWebサイトなどと呼ぶ人はほとんどいなかった)を公開し始めた頃だ。「誰でもクリエイター化」の始まりでもある。DTPの比率に注目!

 

mac-2013

そして昨年。もうほとんどの人がインターネットを使うためにMacを買っている。すでにDTP目的の購入はデータから消えている(笑。そしてここには表われないが、現在のPCからiPhoneのようなモバイル機器への流れを考えると、Mac自体の購入がかなり減少しているのだと思う。

 

これをみて何がわかったか。現在、Macが創り上げた時代のDTPというシステムは、もはや存在しないに等しいということではないだろうか。当面、印刷物が無くなるということはありえないので、あくまでも一般レベルで、しかも欧米ではという意味で、である。仕事や学習を別にすると、日常の紙を使う用途はほとんどがディスプレイで事足りることが多くなっているのだと思う。

DTPは、先にも触れたとおり「ディスクトップパブリッシング(机上出版)」の略称である。言語を忠実に解釈すると、「机の上で印刷物を作る」ではなく「机の上で出版をする」ことなのだ。前者であれば、それはむしろ「ディスクトッププリプレス」となり、より専門性の高い分野での印刷工程を意味する。

以前は「出版」といえば、印刷するのが前提であった。しかし現在は、電子書籍はおろか、Webサイト上で作品を発表し課金もできる「ノープリンティング」の時代でもある。有料メルマガなどはその最たるものだろう。印刷物に携わる業界人(デザイナーも含む)以外は、従来のDTPを通り越して紙自体を消費しない「出版」に移行してしまっている。そう考えると、本来の意味の通り「出版する」DTPは、まだ生きているといえるだろう。

ぼく自身も、仕事としてデジタルの恩恵を相当に受けている。1990年代前半あたりがアナログからデジタルへの変わり目だっただろうか。独立したのが1996年なので、その頃には作業工程が完全にデジタル化していたと思う。ちらほらとホームページデザインの仕事も舞い込んでいたが、仕事の大部分は印刷としてのDTP前提のデザインであった。そして今、Webの仕事が7割を超すようになっている。恐ろしいものだ。

そして次の問題は、このMacという存在がいつ消え去るのか、ではないだろうか。初代iPhoneが発表されたのが2007年1月。ジョブズが基調講演で初めて公開したときに、ぼくはこれを『2001年宇宙の旅』の象徴である黒い板、そう「モノリス」にそっくりだと思ったものだ。コンピュータはこの時を境に変わったのかもしれない。

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