今年のお盆は、江戸の人たちと会話をしてきた

2013年8月16日

こんなに興奮する展覧会を観たのはしばらくぶりだった。お盆の始めの日(8月13日)、福島県立美術館で開催されている『若冲が来てくれました』という江戸絵画展に行ってきた。東日本大震災復興支援特別展という冠があるとおり、宮城・岩手・福島の各美術館を半年をかけて巡る展覧会となっている。仙台市と盛岡市での開催は終わってしまったので、最後である福島市に立ち寄った。

朝9時半の開場だが、混むかもしれないと思い9時ちょっと過ぎに行ったところ、すでに大行列が続いていた。上記東北3県でのPRもあったようだが、駐車場でナンバーを見てみると東北・関東のみならず関西や九州など遠方も多かった。お盆で帰省&旅行&日本美術の貴重なコレクションを観たいという条件が重なったのかも。東北に観光客を呼び込むという効果は絶大だろう。

この展覧会のサブタイトルは「プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」だ。アメリカ・カリフォルニア州在住のジョー・プライス氏が収集した膨大な江戸期の絵画が中心となっている。なかでも伊藤若冲の絵画は傑作揃いで、大変に貴重なものだ。同氏のコレクション展は、2006年にも東京や大阪などで開催されて大きな話題となったのだが、不運にも行くことができなかった。プライス氏の奥様が日本人ということもあり、今回はご夫妻の東日本大震災に対する特別な思いを、新しい切り口の企画で表現したとのことである。

展示は若冲以外の江戸期の著名な絵師の作品から始まる。鈴木其一や河鍋暁斎、酒井抱一といった名前が美術に興味のない人にも知られるようになったのは、テレビ東京の「開運!なんでも鑑定団」のおかげかもしれない。

群鶴図少し進んでいくと、ようやく伊藤若冲の作品が登場する。「群鶴図」というツルが寄り添いながら佇む作品だ。その造形美の素晴らしさは、絵というよりも妥協を許さない秀悦なデザインである。若冲の作品には常に驚きが秘められている。画面構成が一般的な江戸の絵画とは異質なのだ。浮世絵の北斎や国芳に近いが、それらとも異なるのは、決してアバンギャルドではなく端正な雰囲気があるからなのだろう。展示の終盤に現れる多くの若冲作品を観ていると、故亀倉雄策先生はこの人からかなり影響を受けていたのではなかろうかと想像してしまうのである。

誰もが思うことだが、絵画は現物を観るに限る。特に江戸絵画はそのスケール感が違いすぎる。大きいゆえに筆跡や細かなディテールが観察できて、絵師が描いているときの息遣いまでもが感じられる。画面の片隅にさりげなく描かれた見落としそうなほどの小さな虫一匹に、遊び心を見つけたりもする。残された絵を通して、江戸を生きた先人と今を生きている人たちとの無言の会話がそこかしこでおこなわれているのだ。それは、いかにもお盆らしい光景でもあった。

夏のシラサギ、冬のシラサギ今回特に圧巻だったのが、山口素絢の「夏冬白鷺図屏風」という、全面に銀箔を施した六曲一双の屏風絵の素晴らしさ。総銀地の作品自体を観る機会が少ないこともあるが、変色が少ない保存状態の良さは特筆ものである。大きさといい、銀が醸しだす雰囲気といい、この絵の存在感を印刷物やディスプレイの画像で再現することはほとんど不可能である。おそらく1割も伝わらないだろう。

展覧会サイトやポスター・チラシに使われているメインイメージは、マス目上に極彩色で描かれた若冲の有名な「鳥獣花木図屏風」である。これは子どもを意識しているためであろう。展示にもカタログにも、かなを多用してわかりやすい説明を付けたり、動物をテーマに集めたコーナー展示にしたりと、子どもの目線で観て楽しんでもらうことに重点を置いていた。プライス夫妻から被災地の子どもたちへの大きなプレゼントになっていることは間違いない。

プライス氏の江戸絵画コレクションの発端は、若冲の「葡萄図」という作品だそうだが、氏が作者の名前を知るのはずっと後になってからだという。日本人が評価をしていなかった作品を異国の慧眼が評価するのは、浮世絵の例もあり珍しいことではない。それにしてもここまでのコレクションを、信じられないほど良好な保存状態で管理してくれていたことに感謝したい思いでいっぱいなのである。

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