モノとプラットフォーム(9)-感情

2011年6月12日

インターネット自体がクラウドそのものだ、と以前に「雲にこそ心ときめく」の中で書きました。iCloudが発表になりましたが、この登場はパソコンやデバイスの「モノ」としての存在価値をさらに軽いものとしていきそうです。先日Appleが開催したWWDC 2011 はそんなことを感じさせました。
このシリーズも昨年の暮れからダラダラと続けてきて、もうそろそろ終りにしようと思いますが、今回はIT時代の「モノ」に対する気持ちを考えてみます。

 

今のIT社会の中でおこなわれているのは、まさにプラットフォーム戦争である。プラットフォームの数は、いつの時代もそう多くを必要としない。分散化し過ぎると効率が悪くなったりユーザにとっても高コストになってしまい、提供する側がビジネスとして存続できなくなるからだ。

以前の代表的なプラットフォームは「OS」であった。それは、パソコンというローカルな「モノ」の中にきちんとセッティングされた環境の中でしか使えないシロモノで、そこで覇権を握っていたのがMicrosoftである。それがWebの時代になり、オープンソースを武器に登場したGoogleにとって変わられた。「パソコン」や「OS」の種類にこだわる必要がなくなったのである。そして今度はクラウドだ。

Appleがこの位置を陣取ろうと思ったのがいつごろなのかはわからない。なにしろ、MobileMeという今となっては擬似クラウド的なサービスを本気で展開し始めたのはそんなに古い話ではないのである。これはAppleの失敗作のひとつではあるが、iCloudの反面教師として充分な教訓を得たという意味では良かったのだろう(ユーザにとってはたまったものではないが)。

レスポンスやセキュリティ面の不安など、iCloudが成功するかどうかは使ってみないとわからない。しかし成功すれば、Appleというプラットフォームはさらに巨大なものとなるだろう。そしてGoogleはさらにその上を行くのかもしれない。

また、iOS対Androidというように、モバイル分野に「OS」の主導権争いが移ったように見えるが、それがパソコンOS戦争の後追いである以上、そのような囲い込みは早晩意味がなくなるのだと思う。パソコンはおろか「デバイス」にもこだわらない時代に入ろうとしているのだから。

そうなると「モノ」の存在は希薄化してくる。つまり、いつでもどこでも自分のコンテンツを作り、自分の引き出しのようにしまっておくことができ、どこからでもそれを取り出すことができればそれでいいのだ。足りないツールはクラウドでいつでも手に入れられる。書類も本も音楽も写真も動画も、コミュニケーションさえも…。

 

「モノ」に残るのは何か。パソコンでさえガジェットと呼ばれ、愛着を持たれる場合がある。しかし、例えばその中にコンテンツがなくなり、OSというプラットフォームが稼動していない状態だったらどうだろう。携帯電話も同じだ。使えていたからこそ愛着があったのだ。iPhoneやiPadのデザイン性が評価されるが、プラットフォームという中身がなくなり、真っ黒の画面になったときのあの「モノ」たちに、はたして魅力は存在し続けるのか。

IT時代のツールは機能優先なのである。もちろんどんな時代の「モノ(道具)」にでも機能美はある。しかし、IT周辺の「モノ」は、その比重が飛び抜けて高い。プラットフォーム、つまり、中で動く、機能するもののデザイン性にこそ魅力を感じ、包み込む「モノ」としての工業技術は、それを使いやくするためやパッケージングで可動性を確保するといった補完的役割がメインなのである。一見使い捨てではあるが、実は部品や素材のリサイクルを念頭においたプロダクト設計のモノづくり。IT社会とはそんな時代なのかもしれない。

翻って、前時代(工業化時代。つい最近のことです)の「モノ」には愛着を持てるようなものが多い。カメラや時計、レコード(特にジャケット)、装丁の良い書籍、電話機だって魅力のあるものが多い。これらは、機能が失われてもプロダクトとして成立しているものがあるように思う。使えなきゃゴミ、使えればなんでもいい、という発想に陥りがちな今の社会には受け入れられないのかもしれない。

精神の充実度を何で満たすのかということは、生きてきた時代という環境や個人的なことに左右されてしまうのだとも思う。IT社会の象徴が「デジタル=機能」であれば、前時代は「アナログ=モノとしての魅力」であろう。
少し前の日産車のCMコピーに「モノより思い出」というのがあったが、「モノこそ思い出」の場合も往々にしてあるのだ。

 

↓こんな場所は機能に関係がないのに、魅力的であることにかわりはない。
川から愛でる高速道路の裏側

 

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