モノとプラットフォーム(3)-音楽

2010年12月15日

日本レコード大賞、今年もあるんでしょうか?あるんでしょうね。
もう新曲を「レコード」で発表するなんていうことが無くなってから何十年も経つのに、いまだにこの名称を使っていることには敬意を表します。この場合は「レコード=記録されたもの」という解釈で続けているのかもしれませんが、若年層にレコードって言ったって、どんなものかわからない人も多いのではないでしょうか。もうすぐ、CDさえわからない世代が出現してくるのですよ。
ああ、恐ろしい!

今回は音楽の内容そのものではなく、その伝播形態や器(いれもの)がどう変わってきたのか、頒布や流通方法の変遷や、どう変わっていくのかなどを探ってみます。

 

音楽は一期一会から始まった

音楽は、神が与えてくれた共通の言葉ともいわれる。元々は祈りや祝いといった儀式や生活の中から生まれた。歌もあるが、太鼓のようにリズム主体のものが多かったことは、現在のアフリカ音楽に起源をみることが出来る。

かつての音楽は、その時その場にいなければ同じものを聴くことができないライブなものとして存在していた。そこに音そのものを固定化する「モノ」は介在していない。現在に続くクラシックの世界でも、楽譜を元に忠実に再現することはできるが、例えばバッハやモーツァルトその人の音源を聴くことはできない。

それは、同時代に生きていた人たちにのみ許された一期一会の楽しみなのであった。その音楽の楽しみ方を180度変えたのは、音を記録する「録音」という技術の発明だ。

 

持ち運べる音楽へ

産業革命の波がアメリカに渡り、さらに技術革新がなされるようになった。音の振動を再生させる電話機の発明に続き、それを記録できるようにしたのが、1877年にエジソンによって発明されたレコードである。

現在に知られる黒い円盤とはまったく異なる形状だったが、ここから音楽は、一期一会だけから半永久的な存在へと変わる「モノ」となる。「モノ」としての音楽はさらに、プレスによる「複製」を手に入れた。大量に売買できるビジネスの対象となったのである。

記録された音楽は「パッケージ」という入れ物を介してお金さえ出せば手に入り、無料でも「ラジオ」から流れてきたり、街を歩けばどこからか聞こえてくるようになった。クラシックの時代に宮廷や上流社会のものであった音楽が大衆化しだしたのである。

この、「パッケージ」で音楽を聴くという状況は、レコード、テープ、CDと形を変えながら現在に至っている。ほぼ1世紀だ。長いような気もするが、音楽の歴史を考えるとたいしたことではない。しかし、同時代に生きている我々にとっては、これが日常的に音楽を聴くスタイルだったのだ。

だからこそ、以前にA Day In The Lifeで書いたように「モノ」としてのパッケージ(ジャケットデザインやレコード盤のレーベルなど)に愛着が出てくるし、その記憶に自分のノスタルジーを重ね合わせてしまう人も多いのかもしれない。特にジャケットはアイコン(目印)としてのキャッチーな役目も果たし、音楽の内容そのものにも視覚からの影響を与えた可能性がある。原初に立ち返り、音楽は音楽そのもので聴けばいいんだとわかってはいつつも。

 

音楽は空気のようになるだろう

音楽の記録媒体が明確にノンパッケージ化しだしたのは、AppleのiTunesの登場と普及によるところが大きいだろう。モバイルに関していえば「着うた」の普及がある。今秋、iTunesのバージョンが10になり、アイコンからCDのモチーフが消えた。もはやAppleにとってはパッケージは無いも同然なのだろう。CDを買ってリッピングすることさえ「古いよ」と言われているようだ。

そして、ついに日本のAmazonも音楽配信を開始した。CDというパッケージを大量に売っているAmazonでさえも未来を見据えている。Googleはどうするのだろう。来たるべきは音楽のクラウド化なのだ。

Lalaという音楽ストリーミングサービスの会社を買収したAppleは、まだこのサービスを開始していない。現在完成間近の大規模データセンターが本格稼働するときに、これは始まるんじゃないだろうか。もちろん、音楽だけではなく映像もそうなるだろう。

パッケージという「モノ」を介する音楽の世界は終わりつつあるのだと思っている。だからといって一期一会に戻るわけではない。モノは消えるが、音楽そのものは「プラットフォーム」の中で生き続けていくのだ。ネットが空気のような存在になるとき、音楽もそうなっていくのかもしれない。

モノとプラットフォーム(3)-音楽」への4件のフィードバック

  1. snafkin7

    懐かしく、興味深く、拝読させていただきました。
    私が悲しいのはクラブミュージックの衰退です。
    生バンドを集められない、お金がない、ということから
    「ディスコティーク」が誕生したのですが
    その名のとおり、ディスクが主体なんですね。
    アナログをまわし、アナログを交錯し、
    まぁ、デジタルディスクでもいいんですが
    やはり、円盤がない世界になってくると
    味わい回帰なんていう反動もあるんですが
    流れとしては、弱っていったということがあります。
    記憶では、2000年に入ると、結構、ロシア系
    オーストラリア系のサイトから
    音楽をダウンロードしはじめていた気がします。
    2005年くらいまでは私もまだ
    クラブミュージックのCDを買っていました。
    CD棚を見ると、それ以降全く買っていないことに
    なっています。
    反動としては生バンド、楽器クロスがあるんですが
    クラブミュージックはそれ以降、トレンドを作れず
    一気に衰退した印象を受けます。
    要は、記事に書かれていますように
    音楽が空気になってしまったからです。
    実体がなくなっちゃったから、まわせないのです。
    音楽はただ、記憶そのもののような感じです。
    iPodで、ネイティブアメリカンが作った白人を呪い殺す「ゴーストダンス」という曲を聴いていると
    音楽は、怨念そのもののように聞こえます。
    アステカ文明のピラミッド下で踊っていたジャガーダンスをイメージした「ジャガー」という曲を聴いていると、古い魂そのもののように聞こえます。
    モノがなくなり、デジタル信号でしかなくなった音楽は、脳の中に消えていくだけです。
    そう、本当に空気になっているような気がします。
    私は古い世代だから、それを悲しいと感じているだけかもしれません。

    返信
  2. kasttbs

    コメントありがとうございます。
    モノとしての音楽(レコード)を使うことで音楽そのものが生まれる、確かにクラブミュージックはその典型例ですね。
    実は今回、音楽の内容にまで踏み込もうと思ってみたのです。
    例えばモノとして個別の楽器が無くとも、MIDIや打ち込み系、最近ではiPadアプリで実用化され始めたシーケンサー類のように、プラットフォームの中で音楽が生まれ、演奏も可能になってきたといったようなことです。
    歌でさえヤマハのVOCALOIDなどが出てきましたから。
    でも、ちょっと難しすぎて(音楽的に、という意味で)ボロが出そうなのでやめておきました。

    返信
  3. snafkin7

    1985年くらいに、坂本龍一の「音楽機械論」を読み、影響され、YAMAHAのDX-100全セットを買って、自分でテクノミュージックを作っていた頃があります。「トロピカルバケラッタ」とかわけのわからん音楽なのですが(笑)まわりに聞いてもらって喜んでいました。しかし、すべての音を完璧にあわせられないので、あっ、プロにはなれねぇな、で途中でやめてしまいました。
    今はMACでガレージバンドとかあるでしょ、あれを使えば簡単に、昔悩んでいたズレが解消されて、今なら誰でもそこそこのもの作れるなぁとイヤになってしまいます(笑)
    YAMAHA DX-7とかDX-5は私、指が短いので、使えなかったんです。ちょっとミニタイプのDX-100のキーボードだけ持ち出して、結婚式とかで弾いてました(笑)
    初音ミクの衣装って、YAMAHA公認のDX-7仕様でしょ、素晴らしいと思いますね。あのシリーズを愛してるものにとっては、ミク=楽器なんです。萌え以上の愛着があると思いますよ。みんな。

    返信
  4. 松本淳

    レコードの登場で、音楽は演奏するものから再生するものになったわけですよね。80年代のDJたちは、この「再生専用」のディスクを無理やり演奏するものに引きずりおろしてしまったわけです。やっぱり音楽って、ただ聴いてるだけじゃ面白くないんですよね。だから日本発のカラオケが世界のスタンダードにもなったと。
    で、デジタルの時代になって、サンプリングとかリミックスとか、「レコード」を切り刻んでその固定されたシーンに乱入するのが技術的にはさらに簡単になったんだと思います。一方で「空気のように」再生されながら、他方ではそういう意味での奏者が増殖する。あとは、商売と法制度がこの可能性を歪めなければいいがなと思います。
    音楽は、聴くだけじゃつまらないですよ、やっぱり。

    返信

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